コロナ hiv。 新型コロナウイルスは、HIVウイルスのように免疫系を破壊する? その鍵は「T細胞」が握っている

新型コロナウイルスは、HIVウイルスのように免疫系を破壊する? その鍵は「T細胞」が握っている

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「新型コロナウイルスに『HIV(エイズウイルス)』のタンパク質が挿入されていることをインド工科大学の科学者たちが発見」という情報がネット上で拡散。 新型コロナウイルスは「飛沫感染するエイズウイルス」などという情報も飛び交っている。 この情報は誤りだ。 BuzzFeed Newsは米国国立研究機関博士研究員として免疫学やウイルス学を専門とする峰宗太郎医師の協力を得て、ファクトチェックを実施した。 峰医師は新型コロナウイルスとHIVのタンパク質の一部の類似性があるとしつつ、あくまでこれは偶然であり、「多くの生物から同じような配列は見つかる」としている。 「空気感染する免疫不全を起こすウィルス」といった情報が拡散 拡散しているのは「新型コロナウイルスに『HIV(エイズウイルス)』のタンパク質が挿入されていることをインド工科大学の科学者たちが発見」という情報だ。 発端となったのは、まとめサイト「In Deep」に2月1日に掲載された 「新型コロナウイルスに『HIV(エイズウイルス)』のタンパク質が挿入されていることをインド工科大学の科学者たちが発見。 さらに『感染しても免疫を獲得できない示唆』を中国当局が示し、事態は新たな局面に」(ママ)という記事だ。 計測ツールBuzzSumoで調べたところ、この記事はFacebookやTwitterを中心に1万5000回以上シェアされていた。 また、まとめサイト「アノニマスポスト」は2月2日、 「タイ政府、新型コロナウイルスによる肺炎の治療には"エイズ治療薬"が有効と発表 インドのデリー大学教授『コロナウイルスからHIVと同じ組成が見つかった』の発表を裏付ける結果に〜ネットの反応『中国の人口ウィルス説がますます濃厚になってて笑うw』」(ママ)という記事を掲載。 この記事もTwitterを中心に2000回以上シェアされている。 こうした記事をうけて、ネット上では「ヒト免疫不全ウイルス これが本当なら、まじに東京オリンピック中止かもな」「詳しくはわからないけど空気感染する免疫不全を起こすウィルスかもってこと?」といった声が上がっている。 情報拡散の背景に中国当局の再感染リスクへの警戒を呼びかける声明 記事が拡散した背景にあると見られているのが、中国国家衛生健康委員会が1月31日に記者会見で公表した新型コロナウイルスによる肺炎の再感染リスクに関するコメントだ。 は記者会見で中日友好医院の医師が「感染後にできる抗体には長期間持続しないものもある。 一度感染し治癒した患者にも再感染のリスクがある」と語り、警戒を呼びかけたと報じている。 先出のまとめサイト「In Deep」に掲載された記事では「一般的にどんな感染症でも『1度感染した後は、変異していないのなら、そのウイルスにはその後は感染しない』です」とした上で、ヒトの免疫を不全にする作用を持つHIVなどであればあり得るとしている。 こうした説明を行った上で、紹介されているのがBioRxivに掲載されていたインド工科大学の科学者たちによるだ。 その論文では「新型コロナウイルスには4つの他のウイルスのタンパク質が挿入している」ことがわかり、挿入している4種類のタンパク質すべてが「エイズウイルスのタンパク質と同じ」であると示されたと記事中では説明している。 その後、筆者はこの類似が偶然によるものであるのか?と問題を提起。 「『自然進化的に偶然そうなったものでない場合』、これは、人為的に操作されたことによるものということになってしまう」とし、この新型コロナウイルスが人為的に生み出された生物兵器なのではないかという自説をほのめかしている。 記事で引用されている論文はすでに撤回済み BioRxivは査読を経ていない論文の下書き(プレプリント)を投稿し、コメントし合うことのできるウェブサイトだ。 この論文の下書きは、すでに著者たちによって撤回されている。 著者はコメント欄で、「深刻な状況を考慮して、SARSのようなコロナウイルスの急速な進化について議論を行うために、できるだけ早くBioRxivで共有しました」と論文を公開した意図を説明。 「陰謀説に食い込むつもりはなかったので、ここではそのような主張はしていません」とコメントした。 また、「世界中のさらなる誤解と混乱を避けるために、我々はプレプリントの現在のバージョンを撤回することを決定し、再分析の後、コメントと懸念に対処して改訂版を掲載する予定です」と論文の下書きを撤回する意思も表明している。 「ウイルスの進化によるものであると考えてよいと思われます」 こうした情報は誤りだ。 峰医師はBuzzFeed Newsの取材に対し、新型コロナウイルスとHIVの類似性について、こう答える。 「確かにHIVのあるタンパク質のごく一部の配列に似てはいますが、似ている部分は非常に短く、偶然に生じた配列である可能性があります」 「新型コロナウイルスの配列について似ている配列をGenBankと言うデータベースで探すと、4つの配列のうち最初の3つは HIV-1 の gp120 というタンパク質のごく一部と似ている配列であることが確認できます。 また、最後の1つはHIV-1 の gag というタンパク質の一部と似ています」 HIVはHIV-1とHIV-2に大きく分けられる。 、HIV-1はHIV-2に比べて感染力が強く、日本におけるHIV感染の報告例は1992年と2002年に確認された2例を除いてHIV-1の型だ。 HIV-1と新型コロナウイルスのタンパク質にはたしかに類似性が見られる。 だが、それはHIVに限ったことではないという。 「これら4箇所の挿入配列に似た配列をデータベースで調べてみますと、HIV-1以外にもたくさん似た配列が見つかってきます。 つまり、類似が指摘されている配列は、とても短いアミノ酸配列であり、多くの生物から同じような配列は見つかるということです」 その上で、2020年1月27日に公開された武漢で採取されたというコウモリから見つかったコロナウイルスにも新型コロナウイルスと同じ部位に、非常に良く似た配列が見られると峰医師は言及する。 「コウモリのコロナウイルスでほぼ同じ配列が見られることから、この似ている配列はコロナウイルスの自然変異によるもの、つまりウイルスの進化によるものであると考えてよいでしょう」 コロナウイルスは免疫記憶ができにくいと考えられる 今回こうした誤った情報が拡散した背景には、「何度も感染する=ヒトの免疫を不全にする=HIV」という推測も存在した。 そもそもウイルスは一度感染したら再び感染することはないと言えるのだろうか? 「免疫は、感染やワクチンなどによって免疫記憶をつくるために一度罹ったものにはかなりかかりにくくなるのが原則ではありますが、何度も感染するということは特別なことではありません。 また免疫不全を引き起こすHIVについては、免疫細胞をターゲットにして感染するものですが、コロナウイルスは基本的に免疫細胞をターゲットとしているとは考えられません」 峰医師は「免疫記憶」が形作られるプロセスをまず説明する。 「ウイルスなどに感染すると、免疫細胞の反応によって『抗体』というものが作られる液性免疫と、細胞を特異的に殺す細胞性免疫というところを中心に『免疫記憶』というものが形作られます」 この「免疫記憶」は、「一度身体に侵入した病原体の一部を記憶し、二度目の感染をした際には免疫細胞が病原体を退治する機能」だ。 麻疹や風疹、水ぼうそうなどが、こうした免疫記憶が形成される感染症の一例だ。 こうしたウイルスは非常に強い反応を起こすため、「原則的には一生に一回感染するだけで、二度目は免疫によって撃退され感染しないことが多い」。 ただし、「免疫記憶の形成は、ある程度の強い刺激がないとうまく定着しない」と峰医師は言う。 また、「病原体が頻繁に変異するものに対しては、免疫記憶は形成されにくい」。 その例が、インフルエンザウイルスやHIVだ。 「インフルエンザウイルスやHIVなどでは、ウイルス側が素早く変異していくこともあり、免疫記憶したウイルスの形が変わってしまい、うまく作用出来ないこともあります」 このため、毎シーズンインフルエンザに感染するといったことが起こり得るのだ。 「さらに、風邪のウイルス、つまりコロナウイルスやライノウイルスなどやインフルエンザなどではその表面パターンが非常に多く、免疫記憶ができにくいということも考えられます」 なぜ再感染の懸念が? こうした中で、中国当局はなぜ再感染への懸念を示したのだろうか。 「中国当局の記者会見では再感染する可能性も述べられており、実際にそういったことが起こったから発表されたのかもしれませんが、免疫記憶ができにくければ再感染する可能性はあり得ることです」と峰さんは説明する。 「免疫記憶を形作る1つの仕組みは抗体が産生されていることですが、これができにくいウイルスであれば再感染することは十分に考えられます」とした上で、まだ不明点が多いウイルスであることに言及する。 「新型コロナウイルスの感染によってできた抗体がどの程度の間、維持されるかについてはまだ情報が少なくわかっていません」 治療にHIVの治療薬。 その理由 現在すでにHIVの治療薬が新型コロナウイルスに効果があるか検証する臨床研究が始まっている その理由は「分解酵素などはウイルスの中で似たものを持つことはよくあり、HIVに使える薬がコロナウイルスにも使えそうだということ」だ。 「新型コロナウイルスのウイルスの増殖や維持に重要ないくつかの分解酵素などの構造を解析したところ、これらの酵素を阻害、つまり機能しないようにする形を持った分子として、HIV治療薬などが候補にあがっています」 「大事なことは、HIVに『似た』(偶然と思われますが)配列を持つ糖タンパクは、ウイルスの表面にあるタンパク質であり、HIV治療薬のターゲットとなっているタンパク質とは全くの別物であるということです」 BuzzFeed JapanはNPO法人「」(FIJ)のメディアパートナーとして、2019年7月からそのガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。 ファクトチェック記事には、以下のレーティングを必ず記載します。 ガイドラインはからご覧ください。 なお、今回の対象言説は、FIJの共有システム「Claim Monitor」で覚知しました。 また、これまでBuzzFeed Japanが実施したファクトチェックや、関連記事はからご覧ください。 正確 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。 ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。 ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。 判定留保 真偽を証明することが困難。 誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。

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新型コロナウイルスは、HIVウイルスのように免疫系を破壊する? その鍵は「T細胞」が握っている

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新型コロナウイルス(正式名称は「SARS-CoV-2」)に感染した患者の重症化の原因のひとつとして、免疫系の暴走である「サイトカインストーム」が挙げられている。 そのメカニズムの一部が見えてきた。 なぜ免疫システムが暴走するのか。 そしてなぜ高齢者や肥満の人に多いのか。 その秘密は、病原体と闘う免疫細胞と、異物を排除するために免疫細胞を活性化させる信号「サイトカイン」の食い違いによるものかもしれない。 複数の研究機関によると、新型コロナウイルス感染症「COVID-19」の患者の血液内で、白血球の一種であるリンパ球の劇的な減少がみられることがわかってきた。 その理由のひとつに、新型コロナウイルスがリンパ球の70〜80パーセントを占める「T細胞」に感染し、破壊する可能性が挙げられている。 その末に、患者を死に至らしめる「サイトカインストーム」が起きるのだ。 関連記事:新型コロナウイルスは、いかに感染し、そして重症化するのか? そのメカニズムが研究で明らかになってきた ヒトの免疫システムに代表される白血球には、ナチュラルキラー細胞やT細胞と呼ばれるリンパ球がある。 ナチュラルキラー細胞は、がん細胞やウイルスに感染した細胞を攻撃して排除する。 新型コロナウイルスのワクチンが完成するのは、いつになるのだろうか? ワクチンの基礎から最新事例を交えて「知っておくべきこと」を紹介する。 注目すべきは、ヘルパーT細胞の減少は比較的ゆるやかだったが、キラーT細胞のほうは著しく減少したことである。 T細胞の数が回復するとウイルスを撃退できる? それではCOVID-19から回復すると、T細胞の数も元通りになるのだろうか? 研究チームがCOVID-19の陽性患者23人を2週間フォローアップしたところ、回復して陰性判定を受けた患者の総T細胞数、ヘルパーT細胞数、キラーT細胞数に著しい改善がみられたという。 なお、新型コロナウイルスの陽性が持続した患者のT細胞数には、改善はみられなかった。 COVID-19の患者のなかには、長いあいだ体内にウイルスが残存する例が世界各地で報告されているが、ウイルスの撃退に重要なT細胞数が改善しないのがその原因のひとつである可能性がある。 COVID-19の重症化とT細胞数は関連する さらに、重症化した患者のグループと軽症患者のグループのT細胞数を比較したところ、次のような傾向が明らかになった。 重症化した患者のグループでは、発症してから最初の1週間以内にT細胞数の減少が底を打った。 ところがT細胞数は2週目から徐々に増加し始め、3週目には軽症グループと同程度の数まで回復した。 これはT細胞数の回復が、COVID-19の治癒に好ましい結果をもたらしたことを示している。 医学系専門の学術誌『Frontiers in Immunology』で発表された別の論文は、中国においてCOVID-19の患者522人と健康的なコントロール40人を比較し、発症から治癒の過程においてT細胞数やサイトカインの追跡調査を実施している。 研究では、軽症グループの総T細胞数、ヘルパーT細胞数、キラーT細胞数の中央値は1マイクロリットルあたりそれぞれ652、342、208個だったのに対し、重症化したグループでは261、198、64. 3個にまで減少した。 ちなみにロチェスター大学によると、T細胞数の正常範囲は1マイクロリットルあたりヘルパーT細胞は400個以上、キラーT細胞は200〜800個だとされている。 「総T細胞数、ヘルパーT細胞数、キラーT細胞数がそれぞれ800、400、300個未満の場合、患者の生存率と負の相関がありました」と、研究チームは説明している。 さらに研究チームは、COVID-19患者を3つの年齢グループ(20歳未満、20〜59歳、60歳以上)に分類したところ、年齢が増すごとにT細胞数の減少が観察された。 また、60歳以上のグループのT細胞数が最も少なく、高齢者における重症化リスクが再認識されたかたちになった。 加齢によって免疫機能が低下する原因のひとつに「胸腺」の老化がある。 T細胞生産や免疫システムに関与する「胸腺」は最も早く老化する臓器だと言われており、70歳までにはその機能をほとんどなくして脂肪細胞になってしまうのだ。 なお、この研究では重症化グループにも若い患者(26歳)がおり、若くともT細胞数になんらかの異常があると重症化する可能性が示されている。 COVID-19の患者は、T細胞の疲弊または枯渇を示すバイオマーカー(PD-1とTim-3)が有意に高かったのだ。 COVID-19患者のT細胞数とその機能を高めることは、回復のために非常に重要なのです」と、研究者らは説明している。 サイトカインの上昇はT細胞数の減少に関与する? またこの研究は、COVID-19患者では多種のサイトカイン分泌が増加していたことを発見している。 サイトカインとは、細胞同士が情報をとりあうシグナルのことで、病原体を攻撃する炎症性のものと、自分の細胞を傷つけないように保護する作用をもつ抗炎症性のものがある。 その予想に違わず、治癒期にあるCOVID-19患者は、サイトカイン濃度が下がり、T細胞数が回復した。 ところが、通常サイトカインの上昇によって活性化するはずのT細胞がCOVID-19患者では減少し、疲弊していることから、これらのサイトカインの分泌源はT細胞由来ではない可能性が浮上している。 注目すべきは炎症性サイトカインのインターロイキン-6(IL-6)だ。 スペインで572人のCOVID-19患者を対象に実施された調査では、重篤化した患者はそうではない患者と比べてIL-6が10倍も上昇したとプレプリント(査読なし)の論文で報告されている。 この研究では、重症度が高くなるほどIL-6は高い値を示した。 それはおそらく、COVID-19の重症化患者に「肥満」が多いひとつの理由になっている可能性がある。 新型コロナウイルスはHIVウイルスのように免疫不全を引き起こす 科学学術誌『Nature』に掲載された論文では、新型コロナウイルスがT細胞に直接侵入しうるいくつかの経路が実験により示されている。 しかし、T細胞には新型コロナウイルスが侵入する受容体(ACE2)の発現レヴェルが非常に低いことから、感染を可能にする別の受容体があるはずだと推測されている。 免疫システムで重要な働きを担うT細胞の枯渇は、多くの慢性感染症やがんの発症時にみられるT細胞機能不全の状態だ。 その値が1マイクロリットルあたり200個を切ると(正常値は400個以上)、AIDS(後天性免疫不全症候群)を発症したと診断されることになる。 新型コロナウイルスはT細胞に対し、HIVウイルスによく似たプロセスをたどるようだ。 T細胞数が少ない患者には、より緊急性の高い早期介入の必要性が示唆されている。 また、IL-6もCOVID-19の重症化に伴って明らかな上昇がみられることから、重篤化の一因として指標に使える可能性がある。 ちなみに欧州20カ国からの報告では、ビタミンDの欠乏がCOVID-19の症例数と死亡率に有意に関連していると発表されている。 多くの研究では、ビタミンDは自然免疫や適応免疫の応答に重要であり、その欠乏は自己免疫疾患やウイルス感染症の感受性を高めることがわかっている。 ビタミンDを正常値に保つことも、新型コロナウイルス感染症によるサイトカインストームや重症化を防ぐひとつの指標になりそうだ。 新型コロナウイルスのワクチンが完成するのは、いつになるのだろうか? ワクチンの基礎から最新事例を交えて「知っておくべきこと」を紹介する。 INFORMATION 特集・新型コロナウイルスと「世界」の闘い 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、世界をどう変えるのか? いま知っておくべきこと、研究開発のいま、社会や経済への影響など、『WIRED』ならではの切り口から最新情報をお届けする。

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新型コロナウイルスに「HIV (エイズウイルス)」のタンパク質が挿入されていることをインド工科大学の科学者たちが発見。さらに「感染しても免疫を獲得できない示唆」を中国当局が示し、事態は新たな局面に

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生物学の科学誌 BioRxiv(バイオアーカイヴ)に発表された論文より ・ 状況の複雑化 武漢コロナウイルスのことを初めて記事で取りあげたのは、10日ほど前の 1月21日のことでした。 その際の公式発表による全世界の感染確認者数は 222人でした。 本日 2月1日の時点での感染確認者数が約 1万2000人ですので、10日で 50倍以上患者が増えたということになります。 6 - 4. 0 (最大で 1人が 4人に感染させる)という数そのものが小さく感じてきますが、米ジョンス・ホプキンス大学のでは、患者数が 1万を超えている一方で、「退院した人たち」、つまり感染した人たちのうちで、完全に治癒した人の数について、2月1日の時点で「252人」としています。 この疾患の感染拡大の日から考えますと、回復するにしても、それまでには相当の日数がかかる感染症なのかもしれません。 そして本日、やや気になる報道を見かけました。 それは、中国の国家衛生健康委員会の記者会見で医師が述べた言葉でした。 それは、 「感染しても抗体ができないかもしれない」 ことを示唆するものです。 以下は報道です。 一度感染し治癒した患者にも再感染のリスクがある」と述べ、警戒を呼び掛けた。 この報道の重要な部分は、これが単なる一人の医師の考えによる発言ということではなく、この場は、中国国家衛生健康委員会という 「中国当局の公式な会見の場」であるということです。 公式の場で、 「一度感染し治癒した患者にも再感染のリスクがある」 と述べているのです。 これを読みまして「そんな感染症があるかよ」と思わざるを得ないのですが、一般的にどんな感染症でも「1度感染した後は、変異していないのなら、そのウイルスにはその後は感染しない」です。 病原菌への抗体は、簡単にいえば、以下のようなメカニズムで作られます。 日本ウイルス学会のウェブサイトからの抜粋です。 ウイルスなどが感染すると、宿主の血液にはウイルスを不活性化するような物質、抗体が作られる。 抗体を作るのはB細胞である。 抗体は、ウイルスの中和をし、病原体をやっつける。 これは、いわゆる液性免疫と云われるものである。 () どのようなウイルスに感染しても、そのときには、細胞内で、ウイルスに対しての抗体が作られるので「次からは感染しない」のです。 この免疫システムがあるからこそ、人間は歴史上の数多くの病原菌やウイルスの厄災の中で生き残ってきたのです。 風邪や季節性インフルエンザのように、毎年変化するものや、いろいろな種類のあるものは、「風邪」とか「インフルエンザ」という括りでは何度もかかるものですが、それらにしても、同じウイルスであれば基本的には二度はかかりません。 しかし、中国の保健当局の発表では、 新型コロナウイルスは、「二度感染する可能性がある」というのです。 そんなことがあり得るのか……という中で、あり得るとしたら、やはり、日本ウイルス学会のウェブサイトからの抜粋ですが、以下のようなものは、「 ヒトの免疫を不全にする」作用を持ちます。 宿主は菌に対して防御機構を持っている。 菌は防御機構を乗り越え次のステップに進もうとする。 宿主の防御機構がそれぞれのステップで菌に打ち勝てなかった場合にのみ宿主は発病する。 HIV(エイズウイルス)に感染すると、体の免疫機構が崩壊する。 すると、免疫状態が正常な人では発病に至らないような細菌やウイルスの感染でも発病に至る。 なお、HIVは、正式には「ヒト免疫不全ウイルス」ですが、エイズウイルスとしたほうが通りやすいですので、ここでは、その表記にしています。 HIV は免疫細胞に感染して、免疫細胞を破壊することにより、健康な人だと感染や発症はしないような病原菌での症状を起こしてしまうものです。 そういうことを前提として、今回ご紹介しますのは、インド工科大学の科学者たちによる新型ウイルスの解析の中で、 「新型ウイルスには 4つの他のウイルスのタンパク質が挿入している」 ことがわかったということが、科学誌 BioRxiv(バイオアーカイヴ)に掲載されていたのでした。 そして、挿入しているその 4種類のタンパク質すべてが、 「エイズウイルスのタンパク質と同じ」 だということが記されているのです。 解析した新型コロナウイルスは、実際の患者たちから得られたもので、今の現時点で感染拡大しているものと同じものです。 解析図。 黒い四角で囲まれた4カ所が挿入されているタンパク質 ・ 論文のタイトルは、 「新型コロナウイルス 2019-nCoV のタンパク質の中に挿入されているヒト免疫不全ウイルス HIV-1 のタンパク質との不可思議な類似性」というもので、内容の具体的なところは難解で、私が説明できるものではないですが、以下に全文ありますので、ご興味のある方はどうぞ。 ・ そして、新型ウイルスから見つかった、このタンパク質(正式にはスパイクタンパク質と呼ばれるものです)は、「同じコロナウイルスである SARS や MERS には含まれない」ものだというのですね。 論文には、以下のように書かれています。 一般的ではない生物学の専門用語は言葉を置き換えています。 また、新型ウイルスは、正式には「 2019-nCoV 」という名称ですが、ここでは「新型コロナウイルス」としています。 インド工科大学の論文より 新型コロナウイルスのタンパク質は、 SARS と最も近い祖先を共有しているため、その2つのウイルスのタンパク質をコードする配列を比較した。 そうしたところ、新型コロナウイルスから、SARS ウイルスにはない、以下の 4種類のタンパク質の挿入が見つかった。 「GTNGTKR」(挿入1) 「HKNNKS」(挿入2) 「GDSSSG」(挿入3) 「QTNSPRRA」(挿入4) 驚いたことに、挿入しているこれらの配列は SARS ウイルスのタンパク質に存在しなかっただけではなく、コロナウイルスの他の種にも見られないものだった。 ウイルスがこのような独自な挿入を短時間で自然に獲得することはほとんどあり得ないため、これは驚くべきことだった。 この 4種のタンパク質の挿入は、最近の臨床患者の分離株から入手可能な新型コロナウイルスのすべてのゲノム配列に存在することが観察された。 これらの挿入源を知るために、さらに解析を進めると、予想外に、すべての挿入がヒト免疫不全ウイルス-1(HIV-1)と一致した。 ここから先は専門用語の嵐で翻訳しきれないですが、ここまでのところで、内容的にはおわかりではないでしょうか。 この新型ウイルスには 「エイズウイルス」の性質 が含まれているのです。 それが挿入されたルートが、自然界でのものなのか、そうではないのかなどについては論文ではふれられていませんが、科学論文には珍しい「驚きの」とか「予想外の」という表現が見られます。 BioRxiv は「プレプリント」と呼ばれる公開の場で、プレプリントとは、学術雑誌に論文として掲載されることを目的に書かれ、完成している原稿を、査読前にインターネット上のサーバーで公開し、科学者たちと共有する場です。 投稿された段階で、世界中の科学者たちはその論文に対して自由な意見を述べることができます。 今回のこの論文にも、多くの科学者たちからさまざまな意見が出ています。 に意見の投稿欄があります。 そして、現在、多くの科学者たちが、論文を読んで、その 4つのタンパク質の挿入を確認しつつも、 「これは自然進化的に偶然そうなったものではないか」 と述べています。 いや、もう、そう述べるしかないのですよ。 何しろ、 「自然進化的に偶然そうなったもの」でない場合、これは、人為的に操作されたことによるものということになってしまう。 そんなことを口に出せば、この世の陰謀論者と変わらない扱いになってしまう。 ですので、「自然進化的に偶然そうなった」ということで決着したい。 しかし、どうでしょうか。 さきほどのインドの科学者たちの論文にも、 > ウイルスがこのような独自な挿入を短時間で自然に獲得することはほとんどあり得ない とありますが、他の同種類のコロナウイルスにまったく含まれないタンパク質が、自然進化の中で自然に獲得され得るものなのかどうか。 みなさんはどう思われますでしょうか。 先日、以下のような記事で、武漢のウイルス研究などのことにふれ、人為的な操作の可能性もないではないというようなことを記させていただきました。 そのような中で、今回ご紹介しているふたつの件が出てきてしまったのです。 すなわち、 「新型ウイルスは一度感染しても再び感染する可能性があると中国当局が発表」 「新型ウイルスにはエイズウイルスのタンパク質が挿入している」 という2点です。 うーん。 私は昨日くらいまでは、「感染は免れない」というように考えていまして、しかし、 「感染すれば抗体を獲得できるのだから」と楽観的に考えていたのですけれど、そうではない可能性があると知り、ちょっと状況が変わりましたね。 私は最近、ウイルスの勉強なんかもしていたのですけれど、武漢での研究に STING という、ウイルスからの免疫に関する重要なタンパク質に関する研究も含まれていたことを知り、新型コロナウイルスにおいての「感染と免疫のメカニズム」について不気味な感じは持っていました。 しかし、エイズウイルスの性質が含まれているとは…。 自然進化にしても何にしても、これは少し厄介かもしれないですね。 いろいろな意味で新しい局面に入ってきたかもしれません。 ただ、この論文はすでに世界中の科学者たちに共有されていますので、世界の誰かが何か有効な対策をこの解析から見出すことができる可能性も残されているとは思います。

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